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「コロナ禍のローカルヒーロー活動」
2020年に入り日本国内でも流行した新型コロナウィルス感染症は、社会のありとあらゆる方面に多大な影響を及ぼすこととなった。キャラクターマーケティング業界もその影響を多大に受け、行楽地で活躍してきた着ぐるみキャラクターたちはその姿を消すこととなった。
そしてステージショーを主な活動の舞台とし、直接のふれあいを重視してきたローカルヒーローの受けた打撃は、他の地域キャラクターコンテンツや全国放送のテレビ番組で活躍するメジャーヒーローより大きかったと言えるだろう。客席で押し合いへし合いしながら、声を枯らしてヒーローを応援するステージショーも、ヒーローと握手し触れ合うグリーティングも、感染症対策の観点から見れば確かにリスクを伴う行為である。
こうした状況下で、知恵を絞り、コロナ禍に挑む新しい活動を行ったローカルヒーローたちがいた。未経験の非常時にあって出来ることを見極め、ローカルヒーローが「不要不急」でないことを立証した活動と言えよう。この特設コーナーでは、これら能動的実践例を3種に分けて紹介する。
①直接的な感染症対策を行う例
新型コロナウィルス感染症の蔓延を食い止めるための感染症対策を、ローカルヒーローというコンテンツの特色を生かして実践した例である。
キャラクターを用いた啓発ポスターを作成する、衛生のために必要な行為をキャラクターが説明する動画を作成するといった活動が多い。同様の試みは大手メジャーヒーローや子供向け作品のキャラクターにおいても試みられている。しかし地域に根差し時事問題に積極的に活動してきたローカルヒーローは、こうした啓発活動の実績が豊富にあった。その意味でローカルヒーローらしい、経験蓄積を生かす形で展開された活動と見ることも出来るだろう。
本展示会を主催した城西大学経営学部 石井龍太ゼミナールは、「衛生啓発カード」と手作りマスクのサンプルを作り頒布する活動「無いよりマシ作戦」を、大学近隣にて4回実施した。さらに衛生啓発カードの書式を無料公開し、全国の様々なヒーローに参加を呼び掛けた。大学の専門智、大学施設、さらにローカルヒーローというコンテンツとネットワークを連結させた、全国的に見てもかなり踏み込んだ能動的活動であったといえよう。
(図 左上:『時空戦士イバライガー』啓発ポスター 右上:『安芸戦士メープルカイザー』啓発ポスター 下:『リヴァイザーJ』衛生啓発キャラカード)
②在宅生活を支援する例
外出の自粛、特に学校の休講が進む中で、子供たちの在宅時間が増える事態が広く発生した。こうした状況下で、在宅で過ごす時間を退屈しない様、楽しみを提供する活動もローカルヒーローの間で広く行われた。
実際のヒーローショーが実施できない中で、過去のショーの動画や映像作品をインターネット上で公開する実践例は多く見られた。同様の活動は大手テレビ番組のメジャーヒーローでも行われたが、ローカルヒーローの中にはそのまま公開を継続する団体もあり、結果として過去の活動例のアーカイブ化が進行することとなった。
動画配信を行った例としては、ローカルヒーロー達が笑えるネタを投稿し次々とつないでいく「ローカルヒーローネタリレー」(2020年4月)や、ローカルヒーローを含む様々なキャラクターが人々へのエールを送る「コロナに負けるな!頑張ろう日本!!〜応援メッセージ動画」(2020年4~5月)といった試みも行われた。
さらに塗り絵やペーパークラフトを作成し、Twitterなどを通じて無料頒布するという活動も行われた。ねぷたなど、地域色を前面に出した実践例も見られ興味深い。ローカルヒーローの運営団体が直接作成する例もあれば、作画を得意とするファンが団体の了承を得て作成し拡散する例も見られた。
こうした活動はSNSを活用した実践例としての側面を持っている。今日の地域キャラクターコンテンツの拡大は、国際的な発信力を持つツールを誰でも活用できるSNS時代の到来と無関係ではない。ほぼ例外なくTwitterアカウントを持ち、YouTubeにチャンネルを開設している団体も多いローカルヒーローが、これまでの経験蓄積を生かした例といえるだろう。
(図 上:『超神ネイガー』ペーパークラフトお面 下:『お祭り大将ヤーヤドン』ペーパークラフトねぷた)
③新しい形の活動を実施する例
今までローカルヒーローが重視してきたステージショーは、新型コロナウィルス感染症が拡大する中で継続が困難となった。そこで工夫を加え、感染症対策を講じたステージショーの試みも始まっている。屋外に置いて客席に間隔を空けるよう促し、声援を挙げて応援しないことを求める実践例が行われ始めている。またショーの準備を行う楽屋での感染を防ぐ工夫など、目に見えないところではあるがスタッフ間の安全対策も講じられる様になった。
またローカルヒーローの大きな活動の一つであったグリーティング(練り歩き)も工夫を求められている。握手をしない、チラシなどの頒布物はキャラクター側から積極的に提供しないといった、新しいルール作りが開始されている。
さらに無観客でのオンラインステージショーを開催する例もある。SNSを利用した新たな実践例として注目される。こうした活動が今後スタンダードの一つになっていく可能性はある。諸々の技術開発と共に、これまでのステージショーの最大の魅力であった臨場感をどの様に作り出すか、今後の工夫が求められている。
(図 左:『埼玉戦士さいたぁマン』Twitter 右:『2020日本ローカルヒーロー祭』「ご来場のお客様へお願い」)