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INTRODUCTION

ご挨拶

 「ローカルヒーロー」は、1980年代から発生し、全国に広がった地域キャラクターコンテンツの一例である。特に2000年代半ばと2010年代初頭に急増し、今日では日本各地に300例近くが活動している。地域のステージショーを中心に活動すると共に、ヒーローとしての特性から社会貢献活動を積極的に行う例も少なくない。地域に根差したキャラクターとして、地域の抱える社会問題、時事問題へ積極的な取り組みを見せる点は大きな特徴と言えるだろう。

 

 ローカルヒーローは、日本の多くのヒーローたちがそうである様に、顔全体を覆った仮面をつけた姿を取るものが多い。これは激しい戦いから頭部を守る防壁の意味を超えて、壮麗なあるいはユニークな造形がしばしば加えられる。しかしどれだけ飾ろうとも、仮面をつけた者は人体の重要な一部である顔を隠し、代わりに偽りの顔を晒している訳であり、こうした異形の者に対しては不審と恐怖を抱くのが正しい反応であろう。しかし人間は、何故かこうした異形の者に憧憬を抱くきらいがある。

 この危険で不可思議な感情は、決して今に始まったものではない。世界各地に普遍的に存在する伝統祭祀の来訪神や、近世以来あまた描かれてきた時代劇の主役たちには、多くの仮面の者を認めることができる。この世ならざる仮面神たちや、時代劇に登場する忍者たち、覆面の剣士たちは、素顔を見せないことが魅力の一つとなっていることは否めない。秋田のなまはげも、鹿児島のトシドンも、沖縄のパーントゥも、また武蔵坊弁慶も、鼠小僧も、鞍馬天狗も、みな異形の仮面者たちであった。現代人が仮面のヒーローたちに感じる不思議な魅力は、こうした歴史的文化的背景の上に成り立っていると考えるべきであろう。

 

 加えて、今回取り上げるローカルヒーローの造形には、力強さや頼もしさといったヒーローの諸要素と共に、地域の特性や団体の主張が取り込まれた例も少なくない。中には一般的なヒーロー要素とは異なるモチーフが盛り込まれた、ユニークな作品も存在する。かつては「手作り感」「不出来さ」も魅力的な特徴の一つであったが、今日ではプロの手による高い完成度を誇る造形物も多く見られるようになった。

 

 本展示は現代の仮面文化の一つ、地域文化の一つとして、ローカルヒーローの造形物を美術的側面から捉える試みである。展示品の中には、ステージ上での激しい戦いを経て傷つき破損した造形物も含まれる。しかしその傷こそ、ヒーローたちが地域のために体を張ってきた証である。本展示がこの魅力的なコンテンツに新たな光を当てることになれば幸甚である。

石井龍太 城西大学経営学部准教授

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