はじめに
新ヒーローのデザインは、明らかに「正義」と分かる陽性の容姿であることがゼミ生から提案された。また先輩ヒーローの『ユニベーターJ』と差別化する必要があった。そこで当初は、メカニカルな雰囲気にする予定で進めていた。
ただ設定が決まっていく段階で、無機質な鎧やスーツを纏う姿は不自然に思われ、変更することとなった。「超能力で変身する大学生」という設定から、より生物質の強いデザインが模索された。
デザインのモチーフは『鬼の蛹』となった。『蛹』はヒーローの設定にある「若さ」「未熟さ」を表現している。そして『鬼』は「力強さ」と共に、「力」へのある種の不信感を表している。ヒーローとはいえ、他者に「力」を振るうのは、どう言訳してもやはりよろしくない「悪」の要素を含むのではないか。
ただダイレクトに「鬼」にするのではなく、「鬼」と戦っているうちに鬼になってしまったという「方相氏」を取り入れた。リベレスパーJの複眼を思わせるバイザー部分に、4つの金の目が輝いているのは、方相氏の黄金の四つ目を盛り込んだものである。
造形はスケジュールの関係から、設定が完成し、デザインが決まってからの開始では間に合わないと判断したため、勇み足でボディの造形を始めることとなった。胸周りのデザインがメカニカルな雰囲気になっているのは、当初案の名残である。肩周り、腕周りはその後付け加えたもので、『ユニベーターJ』の造形にも取り入れた垂下型の肩パーツを、生物質なデザインと質感で造形した。
素材には、芯材にサンペルカと100均のウレタンボードを用い、胸装甲は合皮貼り、他は滑り止めシートや壁紙等を貼り、表面をG10ボンドでコーティングしてからポスターカラーの筆塗りで仕上げた。
頭部は、顔部分にFRP、後頭部には100均のウレタンボードを熱変形させたものを使用した。
顔部分は油粘土で原型を造形し、石膏でかたどりした。石膏に直接カーワックスを塗りこんで離型剤としつつ、表面の粗い地肌をそのまま活かしている。着色はポスターカラーの筆塗りで仕上げた。基本色を塗った後、希釈した黒を全体に塗り、乾く前にふき取る工程を繰り返して生物感ある色調を目指した。
ツノ部は、木綿の古いシャツを細切りしたものを巻きつけて根元部を作り、ライオンボードを鋏で切って先端部を造形した。G10ボンドでコーティングしてからポスターカラーで着色した。金髪部分は金色のレースカーテンを切って使用した。
敵怪人は、大幹部二人は設定を練る前から準備していた着ぐるみを用いた。「現代の高等教育を破壊しようとする敵」、という設定が決定してから、蜘蛛をモチーフにした「スナッチ」と、スナッチによって操られる「洗脳兵」のデザイン、造形が行われた。
スナッチは、赤い斑点のある蜘蛛の腹部をモチーフにしている。民俗資料の呪具を思わせる質感を目指し、100均のウレタンボードと骸骨マスクを芯に、表面に滑り止めシートを貼ってから、黒と赤の合成繊維のモヘアを貼り、G10ボンドを希釈してコーティングしている。目は色つきの画鋲を使用した。
洗脳兵は冬虫夏草をイメージし、人間の頭にマスクが根を下ろしたデザインを作成した。
顔部分は100均のマスクとウレタンボードで芯を作り、滑り止めシートを貼って造形した。その上でウレタンボードを芯にした茎部分を造形し、密度の濃いスポンジシートを貼って仕上げた。表面をG10ボンドでコーティングし、リベレスパーJの造形時に余ったレースカーテンの切れ端を表面に張って根や蔓を表現した。
塗装はポスターカラーの筆塗りで仕上げた。目にはドールアイを使用し、リアルさと共に自由を奪われた若者の悲しみを表現してみた。