美術
造形
『サクシーダーJ』は石井ゼミ初の集団ヒーローとなった。ヒーローの数が多い分、敵キャラクターの数もそれなりに必要となることは自明であり、当初から相当数の着ぐるみを擁しなければならないと予想された。
そこで高価で時間のかかるFRP造形は回避し、基本的には全てウレタン生地で造形している。加重、強度が要求される部分にはコスプレボード、薄さが要求される部分には100円ショップのウレタンボードを使用した(こうした指針は、前回の『ルーガライザーJ』を踏襲している)。
また毎度手間がかかり、かつアクション時に剥がれがちなポスターカラーによる塗装を最低限度とし、生地の貼り込みを表面成形の基本としているのも本シリーズの造形物の特徴である。ただしメインキャラクターの装甲部には、ポスターカラーの食いつきの良さが確認された100円ショップの敷物を使用している。
例年、早手回しに年度前に敵キャラクターの造形を開始しているが、今回は虫モチーフの怪人2体を2018年4月初旬までにほぼ完成させていた。うち一体は重量系の怪人とし、カブトムシと和風鎧をミックスしたデザインとした。造形ではコスプレボードのマットな黒色をそのまま活かし、分厚いタイヤのような質感を出した。頭部から角を生やしたデザインは先行例が多いので、敢えて頭部と胸部に設けてみた。角はリキテックス・ベーシックスで着色したウレタン製で、透かしを入れて装飾とした。これは後に「ジュウガイ」と名付けられることとなる。
もう一体は狡猾な技能系の怪人とし、ハチと西洋甲冑をミックスしたデザインとした。生物と機械の相反する質感を共存させる目的はほぼ達せられたかと思う。100円ショップの薄手ウレタンをストーブであぶりながら変形させて貼り合せ、G10ボンドを表面に塗布してから、生物質を出したい箇所は筆塗り、機械の質感を出したい箇所はメッキスプレーで塗装した。本シリーズの中で唯一ほぼ全身塗装で仕上げた着ぐるみである。これは後に「ナハラ」と名付けられることとなる。なおジュウガイ、ナハラとも、目は光沢のあるメッシュの布地を貼り込んで、覗き穴兼ゴーグル状の表現とした。これも今回の初挑戦で、演者の評判は良好であった。
怪人2体を踏まえ、6月から7月のゼミ内の会議を経て世界観やキャラクター設定が固められていった。入ゼミ課題であった企画書を元に、先ずは2体のヒーローと怪人3体が設定された。ヒーローは陽性と陰性の対とし、2人揃って力が成立する設定となった。特に陰性のヒーロー「ノワール」はバットマンを思わせる絶望的な過去を背負った設定となり、敵怪人「ナハラ」との因縁も初期の会議で決定された。
またヒーローに変身できる理由として、感情の起伏に応じ力を発揮する「フィモティウム」なる元素が設定された。当初はヒロニウムとされたが、既に他作品で使われているため二転三転することとなった。これを分かり易く明示する為に身につける設定となったが、ベルトでは在り来たりということで、首輪となった。感情と直接関わる「脳と心臓の中間」という位置の問題もあるが、力に囚われているイメージを出すためにも首輪というアイディアはぴったりだった。
この設定会議を踏まえて、既に完成していたジュウガイとナハラにも後から首輪が追加された。ナハラには毒を注入する技が設定されたことから、腰にアンプルを追加している。
ヒーロー2人のうち、陽性の方は明るい色調ということで、オーソドックスに赤となった。名前も色に因み、バリエンテ(スペイン語で赤、勇気の意)となった。デザインは獅子と鷹のモチーフを下敷きに、西洋騎士を加えたものとなった。ただ怪人ナハラの様な金属甲冑風ではなく、アメコミヒーローの風味を入れて、革や樹脂を思わせる様な軽装かつ近代的な雰囲気を加えてみた。サーベルの鍔にも、革製を思わせるライオンの意匠を施した。
陰性のヒーローの名称はかなり悩まれたが、そのものずばりノワール(フランス語で黒)となった。動物+騎士のイメージはバリエンテと同じとし、蛇を意匠に取り入れた。武器も同じくサーベルとなり、鍔には尾をくわえた蛇「ウロボロス」が入っている。
なお早い段階で第3のヒーローが予定されており、第2話で登場することとなる。バリエンテとノワール双方の要素を取り入れ、色は黄色、名前はアマレロ(イタリア語で黄色の意)となった。重量パワータイプのヒーローという設定であったため、デザインは熊と重機のモチーフを取り入れ、さらに日本の鎧をイメージして、胸部中央に家紋、装甲側面に和風の紋様を施した。武器は当初予定されていなかったため、熊の足形を思わせるデザインを額にあしらっている。
ヒーローのデザイン、造形の進行と並行して、怪人の追加も行われた。
重量級の怪人ジュウガイに従う戦闘員として3体が用意された。ユーモラスな狂言回しの役回りを期待して、直情-赤、冷静-青、不真面目-黄の3種の性格と色の設定がなされた。実力と裏腹なネーミングも面白いということで、世界三大珍味から「トリュフ」「キャビア」「フォアグラ」と名付けられた。シナリオにも取り入れられ、ヒーローの一人ノワールに『高級なのは名前だけか・・・』と吐き捨てられることとなる。
デザインモチーフは蜘蛛とした。例年蜘蛛モチーフの怪人を入れていること、そしてわらわらと襲い来る子蜘蛛の雰囲気を出せればと考えた。武器はヌンチャクとし、蜘蛛の長い足を思わせると共に、振り回して見せるとそこそこ魅せる上、軟質素材ならアクションでも怪我しにくいと計算している。
今回の『サクシーダーJ』の大きな特徴のひとつに、その名の通りヒーロー達は力の「継承者」であり、師匠、父親など、彼らにヒーローとして変身できる力を与えた者達が存在する点がある。
陽性のヒーローであるバリエンテには、彼を鍛え、力を与えた師匠がいたと設定された。当初提出された企画書の中にあった「闇落ちした元ヒーロー」のアイディアを活かし、「戦いの中で力尽き、狂い、人類の敵に転向して弟子の前に現れる」という設定が作られていった。ヒーローと怪人の両方のイメージを感じさせるデザインを追及し、オーソドックスなヒーローモチーフである蟷螂や飛蝗を下敷きに、旧軍人風の衣装を纏った怪人となった。
名前は花から取り、「キュラス」となった。双剣の使い手と設定されていたが、単に剣を二本持つのではなく、彼の人生そのものの様に、一つの剣が二つの割れるギミックが設けられている。
陰性のヒーローであるノワールは、親を怪人ナハラに殺された絶望の戦士、と設定したが、それをさらに膨らませ、親自身が力の源となるフィモティウムの研究者であり、元々怪人ナハラの協力者であったという、残酷なストーリーが盛り込まれた。ナハラは、研究者としての頭脳を惜しみ、かつノワールの動揺を誘う目的で、蘇生、洗脳して怪人として差し向けてくるのだ。
頭脳派であり、ヒーローの父親という設定から、ヒーローの雰囲気を残し、また知的な雰囲気を目指してデザインと造形を行った。名前は「パドレ」となったことを踏まえ、モチーフに蝶と共に神父を取り入れた。手には聖書にも見える研究ノートを携え、息子を狙って襲い来る。
パドレには用心棒とでもいうべき2体の怪人、「グローム」「バラム」が付き従う。虎、縞馬と鬼をミックスしたデザインとし、武器は和風な宗教色をという要望から、錫杖と鉄扇が設けられた。