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恐怖のインターン

(作:中澤大樹)

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「よお、ビク!」
城西大学の17号館の周りをトボトボと歩いていた、装甲を身に纏っている人物に突如声が掛かった。そこで、彼は振り向き声をかけてきた人物を確認する。
「あっ、先輩方でしたか…」
彼が目視し、確認できた人物達は打倒悪の秘密結社セルという共通の目標から協力関係にある二人のヒーローの姿があった。
「ん?どうした?やけに元気がないみたいだが…」
探偵を思わせる服装のヒーローであるディクテイザーJが心配そうに彼に問いかけた。
「えぇ…ちょっと、就活が上手くいかなくて。それで、何でこんな目に遭っているのか考えていたら落ち込んでしまって…」
彼はそう言ってまた俯いてしまった。
「そういや、ビクってセルのインターンに参加したから今の状況になったんだよな?」
サメを連想させる装甲を身に纏ったヒーローであるリヴァイザーJが彼に問いかけた。彼はその質問に対し、
「えぇ、碌に調べもせずに申し込んだ僕も悪いですけど、あの時の申し込みを行った企業のHPは普通の優良企業に見してねぇ~。いやぁ~、騙されました本当に。」
彼は空を仰ぎ見る姿勢でそう淡々と呟いた。
「なるほど、大変だったな。ところでセルのインターンはどのようなものなのか?参考にインターンの内容を聞いてもいいか?」
ディクテイザーJが彼に質問をする。彼は顎に手を当て思い出すそぶりを見せてから。
「いいですよ、覚えている限りであれば話しますよ。」
そう言って彼、いやこの物語の主人公であるヒーローであるビクテイザーJは語り始めた。
そう、この物語は就活に行き詰った普通の大学生が如何にヒーローになったのか、そして悪の秘密結社セルは表向きでは、どのような企業を演じているのか。その実態を綴った話である。


2020年3月。
周りの大学3年生が就活でうごき始める中、一人の学生が食堂で就職サイトを開いたスマートフォンを片手に悩みぶつぶつと独り言を呟く学生がいた。
「そろそろ真面目に就活始めた方がいいのかなぁ…インターンに参加した方が内定に有利って聞くし申し込みだけでも…でもなぁ、資格も持ってないし怖いなぁ…」
そう、彼こそがビクテイザーJに改造される前の城西大学の3年生。仮称『B男』である。
『B男』の性格は、押しに弱く勧誘等を断り切れない流されやすい性格であったため。就活も周りの流れを見ながら、何となく行動してきた。しかし、就職という自分で選んで将来を決定する人生の一大イベントに対し、目標もなく大学で単位を取るだけの3年間を過ごした『B男』は、目の前の問題について悩むだけで中々行動できていなかった。
「良い会社って中々見つからないな…というか、僕って何の仕事がしたいのだろう…」
そう悩んでいる『B男』の目に一つの企業が目に付いた。その企業の名前は『総合商社セル』HPに飛んで調べてみると最近できた中小企業であり、卸売業を主とした業務の
商社であることが分かった。早速『B男』は、求人のページに飛んで確認してみた。
「へぇ~、商社か考えたことなかったけど、口コミでも優良企業っぽいし、募集条件に資格も学歴も関係なく人物を見てくれるみたいだし、なにより週休2日、制服支給、肉体労働なし、残業なし、実績により給料アップ、そして、社員の人の【アットホームな職場です】という書き込みと職場満足度の高さ。よし!決めた!この企業のインターンに申し込もう!」
そうして『B男』は、総合商社セルのインターンに申し込んだのであった。
その情報がでっち上げであるとも知らずに…


インターン当日、『B男』はインターンの開始時間の1時間前にスーツを着て、総合商社セル本社の前に立っていた。
「早く着いちゃったな、大丈夫かな、ネクタイ変じゃないかな…。それとマナーも心配だなぁ。インターン前に人事の人にメール送ったし大丈夫だよなぁ…」
ぶつぶつと『B男』が独り言を呟いていると、後ろから謎の人物にB男は声をかけられた。
「君はインターンの学生かな?」
急に声をかけられた『B男』は、振り向きしどろもどろになりながら答えた。
「は、はい!きょ、今日はお日柄も良く!えっと…あの…そのぉ…」
答えながら話しかけてきた人物を『B男』は目視する。その人はカマキリを思わせる2つの鎌を腰に下げ、アイヌ民族の衣装を連想いさせる羽織の下には鎧を思わせる装甲を身に纏った、異常な人物であった。その人物は落ち着かせるような声音で
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。インターンは始めてかな?」
と『B男』に問いかけた。その質問対し
「は、はい!」
と『B男』は答えた。すると装甲の人物は、
「なるほどねぇ。最初は緊張すると思うけど、HPにあるようにうちは、アットホームな会社だからもっと肩の力抜いても大丈夫だよ。はい、深呼吸して。」
と、『B男』に対してアドバイスを送った。そして『B男』はアドバイス通りに深呼吸をして落ち着いた所で、その装甲の人物は何者なのか、そして、その異常とも言える服装は何なんか疑問を持ち考え始めたが、とりあえずお礼を言うべきだと『B男』は判断し、
「済みません、少し落ち着きました。ありがとうございます。」
と、お礼を述べた。
「それは良かった。そういえば自己紹介をしていなかったな、私は総合商社セルの総務部人事課の課長を務めている。首切之鎌足という者だ。インターンの担当は私ではないけれど今後一緒に働けることを楽しみにしているよ。では、私は用事があるので失礼するよ。」
「あっ、はい!此方こそ期待に沿えるように頑張ります!それとありがとうございました。」
鎌足がそう言って去っていくと『B男』はそれを見送りながらお礼を言った。
(いい人だったなぁ…。課長とか上司の人柄も良いし、インターン終わったら本気でセル目指そうかな…。あっ、でも変な服装の事とか、武器を持っていた事について聞けなかったなぁ…。おっと、なんだかんだ話していたらそろそろ時間だ。受付に向かおう)
『B男』は内心そんなことを考えながら受付に向かうべくセルの本社に入るのだった。

セル本社に入った『B男』は、エントランスに入り辺りを見回した。人が居なくて、迷ったが、よく見ると受付に紙がおいてあり、名前と大学名を書く欄があり、パンフレットと地図の案内に従いレクリエーションルーで待つように指示が書いてある案内があるだけであった。インターンに始めて参加した『B男』インターンとは、こんなものなのかと少し落胆するとともに、受付の対応が無いため気を遣う必要がないという安堵の気持ちを抱いた。


レクリエーションルーム『B男』はノックをした後に
「失礼します。」
と言い入室したが、人は居らず。室内は大学の教室のような教壇と大きなホワイトボードがあり、その対面にある机が一つしかないことから『B男』はインターンの参加者が自分しかいないことを悟り少し気分が沈んだ。そして、座ってよいのか分からずに、インターンの開始時刻から遅れて30分程立って待っていると
「ごめん、ごめん、遅れちゃった。」
と、呑気でやる気のなさそうな声が後ろから聞こえてきた
「いいえ、待って居ませんよ、大丈夫です。」
『B男』がそう答えて声がした方を振り返ると毒蛾の幼虫を思わせる被り物をした科学者らしい服装をした人物が立っていた。
「えっ、本当?じゃあ良いか…。うんっ…?いや待って無いってことは指定した時間に遅れたってこと?駄目だよ、それは、社会人になるってことは責任を持つってことだからね、その辺ちゃんとしたほうが良いと思うよ。全く…」
と、ぶつぶつと愚痴か説教かわからない言葉を呟いた後、その人物は咳払いして、
「まあ、いいかぁ。まだ学生だし。さてと、今日のインターンを担当する槍ヶ岳毒長だよ、よろしく~。まあ、座ってよ。」
と、雰囲気を変えその人物。毒長はフレンドリーに話しかけた。
「(別にこっちが遅れた訳でも無いのだけどな…鎌足さんと違って軽いというか苦手な人だなぁ)あっ、はいっ、遅れてすみませんでした。今日はよろしくお願いいたします!」
『B男』は表情には出さなかったが、内心に不満を抱え毒長に挨拶をした。その様子に毒長が気づき
「ん?何か気になることでも?」
と聞いてくると『B男』は正直不満があると言えずに
「あっ、いえ、その貴社の社員の方々は制服が独特だったので少し気になって…」
と、本心は語らずに、気になっていたことを質問し話題を『B男』は逸らすことにした。
「んっ…、それか!ん~、そうだなぁ~少し待って。」
少し考える素振りを見せると、暫くして携帯を片手にレクリエーションルームから毒長は出て行ってしまった。どうやら、誰かと電話するようだ。そして、3分後に
「いやぁ~待たせたね。それじゃあ、説明するよ。」
と、言い毒長は戻ってきた。
「なんか、わざわざ済みません。」
「いや良いよ、仕事だしね。」
と少しけだるげに毒長は答え、解説し始めた
「じゃあ、話そうかな。まず、HPや資料を見てもらって分かる通りうちの会社は、物資の販売が主な業務の所謂卸売業者だけど、其処らへんは確認してもらえたかな?」
「はい、承知しています。けどそれと服装に何の関係が?」
『B男』インターンを受ける前にある程度情報を確認していたため服装との関連性がないのではと思い質問した。
「そっか、じゃあ他の商社に無いセル特有の業務である人材の派遣についても知っているかな?」
『B男』は肉体労働なしとHPに書かれていたし、人材派遣と服装の関連性といえばコスプレをしてのイベントショーか何かしかないと思い混乱した
「いいえ、HPではそんな事書いていませんでしたが…」
毒長は『B男』のその様子を見てあきれるように、ため息をつくと
「あれ?書いてなかったっけ?まあ、いいか。実はねその人材派遣の業務が君の疑問であるわが社の服装に繋がる訳だよ。人材派遣の業務の時に力仕事が必要な場面があるときにわが社の技術力で研究されたスーツや装甲があればケガもし難く安全で効率的な作業が出来るという訳だよ、理解してもらえたかな(こんな感じに説明すればいいっておじさんも言てったし大丈夫だよな…)」
毒長は先ほどと口調が変わったように説明した後ぼそぼそ話しその音声がマイクを通じて聞こえてきた、どうやら先ほどの電話先のおじさんという人物が助け船を出したらしい。そして、『B男』は先ほどの説明の中に疑問を覚えたので毒長に更に質問をした。
「あの、済みません。HPやパンフレットに肉体労働なしとか書いてあったなですがそれはっ「いや、それは!過度な肉体労働が無いって意味であってそれに何というか、言葉の間違いというか!正社員として入社すれば服装の話題とも無縁だから気にしなくてというか何というか…とにかく!気にしなくても大丈夫!」
「は、はいっ!」
『B男』は早口で話題を打ち切ろうとする毒長の勢いに押され納得してしまう方向で折れてしまった。
「まったく…余計な質問を…。話し込んでしまったし休憩として15分ほど時間を取ることにするから休んでもいいよ。」
そう言って毒長はレクリエーションルームから退出していく途中に後ろを振り向き
「そうそう、絶対にレクリエーションルームとエントランス以外の部屋に立ちらないようにね、それじゃ」
と、言うと去っていてしまった
待っている間『B男』はすることもないので配られたパンフレットに目を通していた。
パンフレットは20ページほどあり、内容としては経営理念や社風といった物の他に業務内容や部署の説明、社員の声も書かれていたが、先ほどの肉体労働や人材派遣の業務については書かれていなかった。
他に情報が無いか見ていると社風や経営理念のページが目に付いた。
左のページには黒ずくめで迷彩柄のカーゴパンツを履いた複数人の人物が仲良さげに肩を組んでいる写真の上に、でかでかと経営理念である「お客様に良質な商品と、笑顔になれるサービスを提供します。」が書かれており、実現するための会社の方針が説明されている。
そして、右のページには社風である「一人一人の社員が会社を支え、会社全体が社員一人一人を支える」といった文字が書かれており、上の役職と思われる先ほどのページの人物より豪華で重装な装甲を身に着けた人物たちが腕を組んで仁王立ちしている写真が載せられていた。
 『B男』は、こんな怪しげな人物達がHPにも載せられていたらこの会社のインターンには参加していなかったなと思った。説明を有耶無耶にされたことと、やはり服装のせいで『B男』の総合商社セルへの印象はマイナスであった。


さて、毒長が退室して、15分経ったがやはり、戻ってこなかった。
『B男』は喉が渇いたのと、さきほどの事から毒長は遅れるだろうと考え、歩いて往復しても2分と掛からないエントランスにある自販機で飲み物を買うために、レクリエーションルームから出るのであった。

エントランスに向かう途中、休憩室がありそこではパンフレットで見た、黒ずくめで迷彩柄のカーゴパンツを履いた二人が居り、気になる話題話をしていたため、観葉植物の陰に隠れ『B男』はその二人の会話を聞くことにした。
「てかさぁ、うちの部署の仕事多くない、新しい上司の課長も俺ら派遣社員のことこき使うしさぁ~。あぁ~転職できねぇかなぁ~。それに、そろそろ給料増えないかなぁ~。この前、銀行の通帳を確認したけど増えるどころか減る一方でさぁ~、明らかに適当にバイト見つけた方が生活水準上がるよなぁ」
先ほど毒長から受けた説明やHPの内容をいきなり否定する言葉が聞こえ『B男』は驚き声を上げそうになったが、堪えて話の続きを聞くことにした。
「それな、でもなぁ~俺らの見た目じゃ雇ってくれることないし、第一、退職届出しても受理されないからなぁ~、あっ、そういえば去年の春ごろに一人の派遣社員が脱走してから、平蛾からの招集有っただろ。あの時に俺ら派遣社員の首元に脱走防止用のチップが埋め込まれたって噂だぜ」
「えっ、マジで!?何、俺ら脱走すると死ぬの!?」
「おまっ!声がデカいって聞かれていたらそれこそ消されるって。」
「そっ、そうだな。はぁ、でも逃なきゃ大丈夫だよな。」
「おう、ってことで諦めてこの仕事続けようぜ」
「だな、はぁ…あの逃げた野郎が羨ましいよ」
「本当だよなぁ、俺この前そいつが、ハンバーガー屋でバイトしている所見たぜ」
「マジかよ!てか…」
二人は話を続けようとしていたが、大きな音が響き中断された。
その音の原因は、今までの話を聞いて即座に逃げようとしていた『B男』が、焦るあまりに観葉植物を倒してしまい鉢が割れてしまったのであった。
「あっ、やべぇあの話聞かれた?」
「聞かれたよな、よし!捕らえて証拠隠滅しよう。」
『B男』(この会社普通じゃない!さっさと逃げなければ)そう考えレクリエーションルームに鞄を置いてきたことも忘れ一目散に逃げだしたが、『B男』は走るのが苦手で、すぐ疲れてしまうため、早くも黒ずくめの二人に追いつかれそうになっていた。
そして、会社の出口まで息を切らしながら逃げ切りそうなところで、
「おっと、何処に行こうというのですか」
という声と共にグッと肩を引っ張られ転倒してしまった。そして、肩を引っ張った人物を『B男』は目視したときに絶望した。
「これは、これは、先ほど振りですねぇ、インターンを申し込んでくれた『B男』。ところで、何処に行こうとしていたのですか、レクリエーションルームの方向は逆ですよ。」
果たして、そこにいたのは最初に声をかけてきた鎌足であった。それを見て『B男』は
「ハア、ハア、ハア…。い、いえ、そのぉ~、実は両親が事故に遭った連絡が休憩時間中に届きまして、それで!急いで向かわなければと、思いまして…」
『B男』の言い訳はスラスラと出てきたがそれに対し鎌足は冷ややかな声音で言った
「ふ~ん、両親がねぇ~。…駄目ですよ、嘘とはいえ両親の不幸を語っては…まあ、逃げ出した理由としてはうちの派遣社員がペラペラと我が社の状況を話してしまい。それで逃げ出したというところでしょうか…」
そう呟くと遅れて追いついた黒ずくめの二人は怯えて鎌足に聞いた
「ハア、ハア、ハア…あのぉ~鎌足様、お手を煩わして済みませんでした。…ところで、自分たちに罰とかは…有りますかねぇ?」
「まぁ、そうですね…。結果としましてはこの『B男』君は特別研修に送るつもりでしたが、私にいらない手間をかけさせたのも事実…後で処分を言い渡しますが、とりあえず今はこの『B男』君。…いえ、研修が終われば【ビクテイザー】ですね。彼を研究室に連れて行きなさい。さて、これから私の会社での実績の為に役立ってもらいますよ【ビクテイザー】」
そう言って鎌足は『B男』の後頭部を鎌の持ち手で強く殴り気絶させた…。


「って感じの経緯で自分はビクテイザーJになり、研修を抜け出して先輩方に助けてもらった感じっスね。あっ、ちなみに鞄とリクルートスーツは戻ってきませんでした」
ビクテイザーJは全てを語り終わった後、照れたように頭を掻いた。無論頭部は装甲に覆われているため掻いても意味はないのだが。
「お、おう。意外と前半までは会社っぽいことやっていたな。なんか…意外だな。てか、ディクテイザーJの時はそうだったが、改造されたら洗脳されてセルの言いなりになるんじゃあないのか?」
リヴァイザーJがビクテイザーJに質問した。
「あっ、それは自分が研修を終えずに脱走したからだと思いますけどね。」
「なるほど、興味深い話ではあった。さて今の話にあるようにこう話している間にセルは人を騙し、被害者を増やしている可能性があるな…」
ディクテイザーJがそう言うと
「そうだな!よし!ディクテイザーJ、ビクテイザーJ早速セルをぶっ潰すぞ!」
そういうとリヴァイザーJは、走り出したそれに続き
「おい!待て!リヴァイザーJまずは、作戦をだなぁ…。って…仕方がない!追いかけるぞビクテイザーJ!」
ディクテイザーJが走り出す。ビクテイザーJは二人の背中を見て
「あっ、ちょっと!僕、走るのは苦手っていつも言っているのに!せ、先輩方待ってくださいよ!」
そう言い二人を追いかけた。ヒーロー三人の打倒セルの戦いはまだまだ続く。

(著者:中澤 大樹)

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