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​蛾の夢

(作:佐々木潤也)

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蝶と蛾には色々な区別方法があるが、蝶と蛾を完璧に見分ける区別方法は存在しない。
よって生物学上ではこの2つの虫はこの2つの虫は区別されていない。フランス語やドイツのように、蝶と蛾を区別して表す表現がない言語も多くある。だから自分が蛾の血族であることに本来であればなんの隔たりも差別もないはずなんだ。しかし蝶を「きれい」とたとえるなら、蛾は「汚い」というイメージがあるようで…
……………。
平蛾博士は目を覚ました。自宅で研究をしていてそのまま机に突っ伏して寝てしまっていたようだ。夢を見ていた。自分の父が幼い自分に何度も語りかけてきた言葉があり強く印象に残っている。夢にまで見るほど脳に刻まれている。
またあの夢か、研究中に寝落ちしてしまうといつも見る。やれやれ、眠気覚ましにとコーヒーを飲む。コーヒーを飲み終えてからすぐ研究に戻るかとも思ったが、あの夢を見てしまうと自分の今までの人生を振り返りたくなる。自分はこれでいいのかと。この研究に意味があるのかと。
会社の事務員A「あの新入社員が逃げ出したって?」
会社の事務員B「平蛾博士だもんね、仕方ないあの人無能だもん」
会社に行くとひそひそと自分の悪口を言われているのを感じる。
いや、ひそひそというかもう聞こえている。
この私が無能だって?ありえない。この会社が存続できているのは私の研究があってこそなんだ!
入社してからずっと研究をしてきたんだ。私は間違っていない!
心の中でブツブツ文句を言う。いや、言葉に出ていた。
平蛾博士「うるさい!事務仕事しかできない!現場にも出ない!研究もしていない奴らが勝手なことを言うな!」
事務員A「やばっ聞こえてたみたい」
事務員B「事務仕事しか出来ないけど新入社員に逃げられたりしてませんよ。ちゃんと自分の仕事はしてますけど?」
事務員A「それ言っちゃダメだって(笑)」
事務員B「いいんだよみんな言ってるもん」
(事務員2人がバカにしたように笑う)

平蛾博士「この私が面倒を見てやったのに勝手に逃げ出したあいつが悪いんだ!私は悪くない!」
平蛾博士は怒りに震えた。持っていた缶コーヒーを床に叩きつけてぶちまけてしまった。事務員たちは怒り狂っている平蛾博士にもう関わりたくなくてその場を離れた。

平蛾博士の部下「おはようございます、平蛾博士。ど、どうしたんですか!?コーヒーが」
いつからいたんだこの部下は。たった今来たのか?上司がバカにされているのを見ていたのか?だったらコーヒーはどうしたなんて聞いてくる、腹が立つ。
平蛾博士「どうしたもこうしたもないだろ!盗み聞きしていたくせに!片付けろ!」
部下「え?出勤してきたら平蛾博士の足元にコーヒーがこぼれてるからどうしたのかと思っただけです。ぶつかったんですか!?研究で疲れて落としたのですか!?」
平蛾博士「本当にたった今来たんだな。すまない。自宅でも研究をしていてな、疲れていたんだ。一緒に片付けるのを手伝ってくれ」
悪口を言われバカにされていたのを見られていたと勘違いしきつい態度を取ってしまったことをを反省する平蛾博士。この部下は私を慕ってくれている。あの新入社員が逃げ出したせいで研究部隊は危機的状況だというのに.........。
でも私のせいではない!私は間違っていない!と自分の非を認められない平蛾博士であった。

部下「床は綺麗になりましたがコーヒーがなくなってしまいましたね、新しいもの買ってきます。」
平蛾博士「よいよい、もう朝礼が始まる。行くぞ。」

(放送のチャイムがなる)
放送「おはようございます。○月×日*曜日です。本日は各部署の朝礼の前に全社員で集会があります。2階第2会議室までご移動お願いします。繰り返します。朝礼の前に全社員で集会を行います。2階第2会議室までお集まりください。」

部下「全社員で?社長からのお話ですかね?」
(平蛾博士は顔が青ざめる)
平蛾博士「.........。」

部下「どうしたんですか!疲れているなら集会が終わったあと少し休んでください!とりあえず移動しましょう」
平蛾「.........。ああ、そうだな。」
平蛾博士心の声(ま、まさかまさか全社員の前で新入社員が逃げ出したことを…)

事務員は社員の勤怠時間の管理を行っているので新入社員が会社に来てないこと知っていたのだ。
逃げ出したということも噂が噂を呼び知っている人は知っている。部下にも知られてしまうのか。そうなれば私に失望するだろう。でも行くしかない。

集会が始まる。そこに社長の姿はなかった。
ニャロース「社長に代わり資産管理部部長の私から話をしよう。集会を始める。」
全社員での集会では社長が来るか皆が思っていたが社長からの話ではないということで平蛾博士は安堵していた。
ニャロース「社長は今から話す件について呆れて出席なさらなかった。それほど深刻な問題だということだ。」
深刻な問題ってなんだ?社長が呆れてる?あたりはざわつき始めた。
ニャンヴィー「静かに!深刻な事態だ!よく聞くように」
資産管理部課長のニャンヴィーが場を沈める。
ニャロース「新入社員が逃げ出した。研修をして当社の業務内容や機密事項を知っているものが逃げ出したのだ。しかも逃げ出してから復讐のために社員を攻撃している。なぜ新入社員が逃げ出したのか。それは研修中に体を改造されたことを強く根に持っているらしい。改造したのは誰だ?その改造は許されていたか?しかも資産を使い込み我々資産管理部の仕事を増やした。」
改造?なになに?人体実験ってこと?だれがやったの?知らないの?だれだれ?研修堪能してたのって人事課だよね?そうそう人事課長の平蛾だよ
平蛾博士って研究部隊もやっててしかも総務部長もやらされてるっていう?
またざわつき始めた。
ニャロース「もう気づいているものは気付いているな。研修を行っていたのは平蛾博士だ!」
皆の視線が平蛾博士に集中する。
ニャロース「そこにいる平蛾博士が勝手な人体実験を行ったせいで新入社員は逃げ出したんだ。この件を全社員に伝えたかった。勝手なことはするんじゃない社長の許可を得ていない行為はしないように。」
ニャンヴィー「静かに!お静かにお願います。いまから平蛾博士の処遇について話をしますので平蛾博士は我々の所に来るように。平蛾博士がこちらに来たら皆自分の部署に戻りたまえ。さあ、早く来い、平蛾博士。」

状況が上手く掴めない平蛾博士の部下。とぼとぼ前へ歩き出す平蛾博士を呼び止める。
部下「博士!人体実験を許可なしで行ったんですか!?ずっと尊敬していたのに!」
平蛾博士「ああ。実験は成功したんだ。でも彼が逃げ出しただけ。私は間違ってない!間違ってない!間違ってない!間違ってない!違う違う違う違うチガアアウウ!!」
ニャロース「うるさい!さっさと来い!」
自分は間違っていないと騒いでいる平蛾博士を押さえ込み前へ連れていくニャンヴィー。
ニャロース「皆各部署に戻れー!集会は終了だ。」

平蛾博士は別の部屋に連れていかれた。猫の巣。資産管理部まで。
ニャスト「やはりあなたは無能ですね。」
ニャンヴィー「我々より先に入社していたのに変な研究ばかりで我々猫科に追いつかれていますからね。」
ニャロース「はは、博士のことはいつもバカにしていたが全社員の前で堂々と馬鹿にできたのは楽しかった。実に滑稽。」
完全に舐められている。新入社員を逃がしてしまったことでやっと堂々と私をコケにするつもりだな
平蛾博士「資産管理部が資産を無駄遣いしていることを知っているぞ!まず人体実験は成功したんだ!失敗してないのならそれでいいじゃないか!」
ニャロース「人体実験が失敗したか成功したかじゃない。新入社員を逃がしたことを罪に問われているんだ。研修を担当していたのは博士だろう?当然責任はお前にある。」
平蛾博士「くっ…勝手に逃げ出したやつが悪い!」
ニャロース「そう駄々をこねても無駄ですよ。人事課前課長の垂蝶さんが知ったらどう思うでしょうね。劣等な生まれの蛾の貴方の研究を認めてくれてこの会社に入れたというのに。あなたを信用して垂蝶さんは課長という役職をあなたに託したんだ!やはり蛾は蝶に劣る、
実に無様だ。垂蝶さんは生まれなどで人を差別しない優しい人だった。垂蝶さんが退院して仕事に復帰したら平蛾博士はクビでしょうね。」
ニャンヴィー「部長、生まれのことまで言わなくても博士自信が1番分かってますよ、自分は劣っているって。蛾は蝶にはなれない。垂蝶さん早く戻ってこないかなぁー。」
ニャロース「すまない、嫌味を言い過ぎたね。さて、平蛾博士この責任どう取ってくれる?」
平蛾博士は父の言葉を思い出す。
平蛾博士の父「蛾は劣ってなどいない。それを証明するんだ。お前には研究がある。研究して研究してその研究を認めさせろ。」
平蛾博士は研究を認められて今の課長の地位を得ている。しかも蝶の生まれの上司に認められて。
それなのに認められた研究で失敗した。後悔の念で頭が埋め尽くされた。やり直したいやり直したいやり直したいやり直したいやり直したいやり直したい。
ニャロース「ずっと黙ったままでどうするんです?責任取って退職しますか?」
平蛾博士「…てくればいいんだな。」
ニャロース「え?なんて?やめるんですね?」
平蛾博士「違う!逃げ出したあいつを捕まえてくればいいんだな?」
ニャロース「お、そうきましたか、それではぬるい。消せ!」
平蛾博士「ああ、消してやる。猫科共め散々コケにしやがって。」
ニャロース「ちゃんと消してきてください。逃げることは許しませんよ。絶対に。」

全社員の前で失態を暴露された平蛾博士。その後忌々しい猫科に散々コケにされた。その悔しさから全力で逃げ出した新入社員を追っていく。 リヴァイザーJの第1話はここから始まるのである。

平蛾博士には研究しかなかった。父の言葉、研究で認めさせるそれしか考えていなかった。研究にかける思いは人一倍強くちゃんと実力もあった。それを認められての入社。入社してからも本気で研究をした。しかし研究しかない平蛾博士はなかなか出世ができなかった。
確かに研究が認められ入社ができ、研究室も与えられている。それだけでは周りは評価してくれない。他の人は研究なんかできなくても入社できているからだ。
平蛾博士は研究も結果を出しつつ会社の業務をになっていく必要があり、総務部長もまかされていた。忙しい、研究に集中したい。でもそれでは出世できない。半年前に後から入社してきた猫科の連中はもう部長、課長だ。私は10年かかったというのに。
嫉妬心だけが膨らんでいった。落ちこぼれだと平蛾博士を猫科がバカにしているという噂を聞いた。もちろん、猫科だけではなくほとんどの社員から落ちこぼれだと認識されていた。
他の社員からも距離を取られるし平蛾博士も全く関わろうとしなかった。人望のなさが人一倍であった。研究しかして来なかったから体型は肥満。戦いには出られない。戦闘能力が低すぎる。平蛾博士自身も自分の限界を感じていた。
そんなときとある新入社員の研修係に任命される。本来であれば垂蝶課長が担っていたが病気を患い入院することになった。急に課長に任命され研修まで行える、またとないチャンスを掴まなければ!と平蛾博士は胸が踊った。
そんな平蛾博士をよそに周りの社員は
「なぜ落ちこぼれの平蛾にやらせる?」
「研修なら人事課の部長にやらせればいいだろう!」
「あの平蛾に研修させられる新入社員かわいそう〜」
「戦闘に行ったこともないのに研修なんてできるの?」
「垂蝶さん優しすぎる、あんな奴にチャンス与えなくていいのに」
人望のなさと研究以外の実力のなさをどうカバーしようかと平蛾博士は考えた。
今からダイエットして戦闘経験を積んでみるか?人望のなさはどうにもならないだろうが少しは自分からみんなに話しかけてみるか、、、色々考えた。

リヴァイザーJ「失礼しまーす!今日から研修って聞いて来たんですけどここで合ってます?」
新入社員が来た。もう来てしまった。研修を始めるしかない。でもどうやってカバーすればいいんだ…
リヴァイザーJ「あれ?すいませーん今日からですよね?ってすごい資料っすね!研究室で研修するんですか?俺場所間違えたかな?」
平蛾博士の部下「博士!もう新入社員が来てますよ!研修を始めないと!とりあえず座ってもらいますね!」
平蛾博士「そ、そうだな。研修を始める。」

ということから全く準備無しで研修を始めることとなった。ここで少しは準備期間があり
何かしら平蛾博士が準備できていれば今回の騒動は起きなかったかもしれない。
すぐ研修を始めなければならなくなった平蛾博士は研究で、研究で結果を出せばいいんだ!なんでもいい!研究の成果をこの新入社員の男に施して強い社員を作る!戦闘能力皆無で戦闘経験がなくても強い社員が作れたらすごいじゃないか!我社の業務内容は世界征服じゃないか!強い社員を作って認めさせてやる!

平蛾博士は会社の業務のこと、規則、給与、待遇の事について研修をした。
ところが新入社員が待遇が酷すぎると言って辞めたいと言い出した。待遇の悪さを私が良くすることは出来ない。私はそんな権限を持っていない。辞められたら困る。私は出世できなくなる。平蛾博士は焦った。焦りに焦りまくった。
リヴァイザーJ「本当に辞めます。まずなんなんだ業務内容が世界征服って!それなのに給料は安いし残業が多すぎる!もうやめます!さようなr…」
平蛾博士「待ってくれ!」
平蛾博士は焦りから完全に理性を失った。
平蛾博士「わかった。辞めたいのだな。仕方ない。未来ある若者に辛い思いはさせたくない。でも今日会えたのも何かの縁だ。君は若い。帰る前に私の研究をちょっと手伝ってくれないか?」
リヴァイザーJ「研究ですか?別になんの用事もないんで良いですけど本当に辞めさせてくれるんですね?」
平蛾博士「ああ!辞めさせてるとも。今上司に電話する。」
平蛾博士は電話をどこにもかけないで耳にあてあたかも上司と電話しているような演技をした。
平蛾博士「もしもしお疲れ様です。今日入った新入社員何ですが、辞めたいと言ってまして、ええ、そうです。よろしいですか?研究は順調です。はい、はい、わかりました。失礼します。」
と嘘の電話をした。

リヴァイザーJ「電話までしてすぐ伝えてくださってありがとうございます。約束通り研究の手伝いってなにをすればいいんですか?」
平蛾博士「待遇とかは良くないけどやめたいって言う若者を引き止めたりはしないよ、いい上司だろう?君も次入る会社は待遇がいいといいな!君に手伝ってもらうのは簡単なことさ」
リヴァイザーJ「はい、じゃあお手伝いします。」
平蛾博士「研究といっても若い人の意見が欲しくてね。質問をするから答えて欲しいんだ。簡単だろ?あ、でも少し長くなるからお茶でも飲みながらにしようか、お茶を入れてくる。すぐ戻ってくるから。」
平蛾博士はお茶を入れに行った。ただのお茶ではない。睡眠薬入りのお茶だった。
平蛾博士「待たせたね、一緒にお茶を飲みながら始めていこうか。あ、ちょうどお昼の時間だね、部下たちは休憩に!リヴァイザーくんもお昼を食べながらにしようか!」
リヴァイザーJ「え!お昼まで頂いちゃっていいんですか!?俺貧乏で今日何も食べないできたんですよ!ありがとうございます。」
平蛾博士「いいんだ!貴重な若者の意見が聞けるんだ!さあ、始めよう。」

理性を失ってしまった平蛾博士はリヴァイザーJを眠らせた。辞めさせてあげると嘘をついて。睡眠薬により眠らされたリヴァイザーJを手術室に運び込み人体実験を行った。
人体実験は成功だった。身体の形は変わってしまったが。
人体実験は許可なしで行ってしまった。休憩から戻ってきた部下たちには許可を得ていると嘘をついた。ちゃんと記憶も消して洗脳もしておいたから強い新入社員として働いてくれるだろう。嘘はバレない。手術後、すぐには目覚めない。安心しきった平蛾博士は休憩に行った。
しかしリヴァイザーJはもう目覚めていた。そしてなぜか記憶があった。しかも洗脳されていなかったのである。
だから逃げ出せたのである。なぜかは分からないが記憶も消されず洗脳もされなかったリヴァイザーJが後に強い正義のヒーローになれたのはここに理由があるのかもしれない。

平蛾博士は人体実験は成功したと思っている。出世のために嘘をついて騙してもいいと思っている。 初めは研究を本気でやっていた。認めさせるために。
その研究で悪さをして失敗した。嫉妬や焦りは人の理性をなくす。平蛾博士が自分が間違っていたと自分の非を認められる日は来るのだろうか。
リヴァイザーJを改造したことで総合商社セルの運命は大きく変わっていくのである。

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